産経新聞連載記事 「ウルトラ・ダラーを追え!」
(対談形式 平成18年5月7日)
vol.7 完璧な日本語 特派員に不可欠
一線記者や特派員にこだわり、ニュースキャスターには転身しませんでしたね。
手嶋 NHK時代にそんな話もありましたが、お断りしました。自分のことだから、よく分かるのですが、まったく向いていないんですよ ( 笑 ) 。それに、現場で取材した人が、そのままのことを伝えるという方が、やっぱりいいと思いますし…。ただ、取材現場に理解が深く、信頼感のあるキャスターがもっといていいとは思います。やや演技過剰な方もいらっしゃいますから。でも、久米宏さんは記者経験がなかったにもかかわらず、ニュース番組のさまざまな可能性を開拓しました。高く評価されてしかるべきだと思います。
特派員に不可欠な英語はどこで学んだのですか?
手嶋 大きな意味で「現場」ですね。前にも少しお話ししましたように、ぼくは受験戦争の被害からは免れた代わりに、正規教育の“つめ跡”がない。そこにきて、かなり突然に「ワシントンに赴任してくれ」でしょう。だから、RとLの発音の違いを現場で知って愕然とするのですが ( 笑 ) 。でも、だからこそ、在任中に「誤報」というものがまったくと言っていいほどなかった、と誇りをもって断言できます。
と、いいますと?
手嶋 わたしは自分の限界を知っていました。ですから、取材現場では常に「分からないところは聞く、確かめる」「分かったふりはしない」を心がけました。結局、こうした基本の徹底が、何事にもかぎを握るのではないでしょうか。ただ、忘れてはならないのはわれわれの“商品”は母国語であることです。取材は英語で行っても最後の商品は日本語。だから、ことばだけでなく、論理も構成も「日本語」にしなくてはならない。一般のイメージとは違うようですが、放送の世界でも、「書く」というのが仕事なのですよ。
それは意外です。
手嶋 まず書いて取材をし、最終的に日本語で書いて放送する。そしてプロである以上、スピードが要求され、どんな修羅場でも整然としていなければなりません。昨今、「バイリンガル」がもてはやされているようですが、母国語が不完全な人は、ニュースの現場では通用しないでしょう。
最後に“古巣”のNHKにひとこと。
手嶋 いわゆるNHK問題にはぼくも心を痛めています。ただ、経営陣がいまやろうとしていることはリストラですよね。経費節減、無駄を省くというのも重要です。でも、求められているのは政治機構や商業主義から独立し、効率的でしかも視聴者の期待にかなう質の高い放送を提供するための自己改革だと思います。
聞き手 関厚夫