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高市政権の行方を読み解く
異例なほどの高支持率に支えられて船出した高市早苗政権は、米国のトランプ大統領を東京に迎えて「日米同盟のゴールデン・エイジを築いていく」と高らかに謳いあげた。直後に韓国でトランプ・習近平会談が控えていただけに、日米のリーダーが誓った結束の言葉は、力による海洋への進出を図る「習近平の中国」には効果的なシグナルとなったことだろう。
だが一方で日米同盟の“ゴールデン・エイジ”とは何を意味するのか。光り輝く未来の実像焦点を結んでいない。日本が防衛費を大幅に増額し、アメリカ製の武器を大量に購入し、熟練した溶接工さえ満足にいない米国の造船業に投資する――それが果たして日本側にとって“黄金”を意味するのだろうか。21世紀の日米同盟が、ウクライナ戦争の停戦やパレスチナ紛争の解決、そして何より台湾海峡と朝鮮半島の有事を未然に防ぐ確かな拠り所となることが示されなければならない。
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ワシントンと東京で、日米同盟の最前線を歩いてきた者の立場から言えば、太平洋を結ぶ安全保障同盟の深層には、黄金の求心力ではなく、遠心力が働いていると言うべきだろう。日本に在っては、高市政権を支える岩盤支持層には、アジア・太平洋戦争は大義ある戦いだったと捉え、それゆえGHQに押し付けられた憲法を改正し、自立した国防軍を持つべしと唱える保守強硬派がいる。一方のアメリカに在っては、「自力で自分の国を守れ」と“安保版アメリカ・ファースト”を唱えるMAGA派がいる。この二つの潮流は日米安保体制を弱体化させる力として働いている。
高市総理が「世界のなかで再び咲き誇る」日本外交をと唱えるなら、自らの国の利益を剥き出しで追い求める“自国ファースト”の潮流を押しとどめる確かな理念を語る必要がある。それこそが西側同盟の盟主としてのアメリカに輝きを取り戻させ、アメリカを再生させる道だろう。そのためには高市総理は、日米共通の礎であるデモクラシーに立脚し、日米同盟に潜む“離米の芽”を摘まなければならない。
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手嶋龍一
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東アジアの深層で生起する異変をいち早く察知するべく動く情報機関、それが公安調査庁だ。中露朝が核戦力を背景に日本を窺う実態を、現職のインテリジェンス・オフィサーが初めて実名で明らかにした。ウクライナとパレスチナの戦争に超大国米国が足を絡め取られる間隙を突いて、中露朝が攻勢に転じている。日本をとりまく安全保障環境の激変に警鐘を鳴らす。