手嶋龍一

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ウルトラ・ダラー

産経新聞連載記事 「ウルトラ・ダラーを追え!」
(対談形式 平成18年5月5日)

vol.5 情報の「真贋」見極め日米に差

《手嶋さんの最新作『ウルトラ・ダラー』は「インテリジェンス」がキーワードである。辞書では「情 ( 諜 ) 報」。同著によると、「知性によって彫琢し抜いた情報」。真のインテリジェンス・オフィサーとは、心眼によって無数の河原の石ころ ( 情報 ) から特別な意味を持ついくつかをつなぎ合わせ、その奥にひそむメッセージを読み取る者だという》

ジャーナリストやスパイ、外交官がインテリジェンスを追う『ウルトラ・ダラー』を読むと、この三者は同根ではないか、という気がします。

手嶋 そうですね。ただ、ジャーナリストの場合、つかんだインテリジェンスは最終的に読者や視聴者に還元される。しかし、外交官や諜報機関の場合は、国家のかじ取りをする人たちの政治決断の材料にする、という違いがあるかもしれません。そうそう、“希代の読み手”である外務省元主任分析官、佐藤優さんとは浅からぬ因縁があるのですよ。

どういう意味ですか?

手嶋 でかいやま、つまり最高級のインテリジェンスを追うのは、獣道に分け入るようなものです。そんなとき、何か分からないけど、風か、人の手なのかがぬるりとふれるような気がした。はっとして周りを見渡したら、目をきらきら輝かせている佐藤さんを感じた、ということを何度も経験しました。

だが、佐藤さんは外務省を休職、多彩な執筆活動を行ってはいるとはいえ、いまだに刑事被告人です。

手嶋 巨大組織にのみ責任があって、佐藤さんが常に正しいと言うつもりはありません。でも、ああいった人を使いこなせない組織は不幸だと思いますね。

インテリジェンスは決して“万能”ではないのではありませんか。たとえば、北木西洋条約機構(NATO)による中国大使館誤爆事件、発見できなかったイラクの大最破壊兵器…。

手嶋 まさにその通り。インテリジェンス頼るべし、そして頼るべからず、というのは常に真理です。最近では、インテリジェンスが持つ危うさの破壊的な例が、民主党を揺るがした「偽メール事件」でしょう。だが、この事件には、別の重大な「情報」が隠されています。

と、いいますと?

手嶋 十年近く前、引退状態だったラムズフェルド米国防長宮に取材をしたことがあります。返り咲きなど不可能と忠われていたのに、現役長官に匹敵するほど情報に精通しており、驚きました。一方わが国では「影の首相」で「安全保障のプロ」とされた前民主党代表がお粗末な偽メールを見抜けず、引責辞任した。事件は、日米の政治家の間にある、決定的な質の差の象徴だと思います。

聞き手 関厚夫

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