米中衝突 危機の日米同盟と朝鮮半島く
メッセージ
国際政局の流れが速い。峻険な山岳地帯から駆け下りてくる急流を思わせる。インテリジェンスのプロフェッショナル、佐藤優さんと対論『独裁の宴』を中央公論新社から上梓して一年にも満たない。にもかかわらず、編集部の強い求めで新たに『米中衝突』を編むことになった。それほどに新たな事態が日々持ち上がっている。米、中、ロの大国では、スタイルは異なるものの、独裁的な政治リーダが君臨し互いに覇を競っている。「インテリジェンス」とは、一国の指導者が国家の生き残りを賭けて下す決断の拠り所となるように分析され、彫琢され、選び抜かれた情報をいう。われわれの眼前で繰り広げられる事象は地下水脈で深く繋がっているのである。「インテリジェンス」の視点から、現下の国際政局を読み解き、読者の皆さんにお届けしたいと願って本書を編んだ。
この一年間は、平昌で開催された冬季オリンピックを舞台に始まった米朝首脳の接触をきっかけにシンガポールでトランプ・金正恩会談が実現し、朝鮮半島の核問題に耳目が引き寄せられた。その背後では、米中両大国の対決が次第に深刻となり、「米中衝突」の構図は動かしがたいものとなっていった。朝鮮半島の核問題は、ワシントンと北京が水面下で激しい鞘当てを繰り返すなかで推移していたのである。日本ではこの一年、北朝鮮の核ミサイルに目を奪われて、米中が軍事、通商、文化のあらゆる面で対決の様相を濃くしていたことに十分な関心が向けられていたとは言い難い。本書では、米中対決が東アジア情勢にどのような影を落としているのか分析を試みている。
朝鮮半島にあっては、北に宥和的な韓国の文在寅政権が北朝鮮に大きく傾きつつある。この九月に北朝鮮を訪れた文在寅大統領が、北が革命の聖地と呼ぶ白頭山に金正恩委員長と手を携えて登頂した映像は象徴的だった。朝鮮半島の力のベクトルは明らかに北を志向しており、その背後には中国の牽引力が働いている。その結果、朝鮮半島を隔ててきた境界線は、中朝の国境や三八度線で障壁が一段と低くなり、対馬海峡が深くて越えがたい溝となりつつある。われわれはそれを「新アチソン・ライン」と呼んだ。本書の刊行を機に読者の皆さんと忌憚ない意見を交わすことができればと願っている。
手嶋龍一
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