手嶋龍一

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ノンフィクション作品

高度な情報活動 重要性説く

米中央情報調査局を意味するCIAとは、Central “Intelligence” Agencyの略であり、”Information”ではない―以前はそう説明すると驚かれたものだ。「インテリジェンス」という言葉の定義自体、日本語に訳するのは難しいが、戦略性を前提とした高度な情報活動とでも言えばいいだろうか。最近ではちらほら使われてきたように思う。本書は二人の論客にそのインテリジェンスと外交について語らせたものである。

国家にとってインテリジェンスがいかに重要であるか、かつてインテリジェンス大国だった日本が現在なぜそれを失ってしまったのか、その背景に外務省がいかに腐敗・退化しているか、それらを柱として、二人はあまり知られることのないインテリジェンス戦争の世界を紹介しつつ、それぞれの視点で世界情勢の分析を行っている。過去における世界のインテリジェンスにまるわる出来事も解説しているが、そのことでインテリジェンスの重要性をあらためて実感することができる。

また単に現状を無責任に批判するだけでなく、日本においてインテリジェンス・オフィサーをどのようにして育成すべきかという各論にも言及しており、日本におけるインテリジェンスの意識を高める重要な啓蒙書とも言えよう。

手嶋龍一、佐藤優の両氏は、ともに近著で国際問題をテーマとした極めて評価の高い作品を生み出している。本書がベストセラー入りしているのもうなずけるところである。

本書はこの秋、激戦の新書分野に参入した一冊であるが、このビッグネーム二人による共演という仕掛けは、後発組が世間の目を引く為の戦略であると誰もが気づく。だが、国家におけるインテリジェンスの重要性を啓蒙するのであれば、それぞれの筆による著作でじっくり持論を展開したものも読みたい。随所に出てくる「世界のインテリジェンス・ネットワーク」の秘話を、より説得力あるものにするためにも。        

評 石澤靖治(学習院女子大教授)

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