手嶋龍一

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スギハラ・ダラー

話の肖像画 インテリジェンス・ナウ<下>「『情報大国』へ進むべき日本」

産経新聞 2010年2月18日掲載

--政権交代からもうじき半年。民主党政権はインテリジェンスを活用できているか

手嶋 本来、政権の中にはインテリジェンスサイクルというものがなければいけません。総理や官房長官は、外交や政策判断に必要な高度な情報を(現場に)求め、集約された情報をさらに精査し、判断材料にしていくことが求められます。しかし今、鳩山(由紀夫)内閣の中でこのサイクルが回っているかといえば、その存在すら疑わしいといわざるをえない。

--具体的には

手嶋 指導者はインテリジェンスサイクルを回し、相手方との交渉の選択肢や方策を見極めることが重要なのに、例えば米軍普天間基地移設問題で日米がぎくしゃくしていることだけを見ても、そういうことが行われている形跡がない。「日米同盟そのものにひびが入っている」と北朝鮮が論評し、介入するような余地を与えていることも大変心配な状況です。

--指導者のリーダーシップが発揮されていないと

手嶋 現場の活躍、インテリジェンスが有効活用されるかどうかは、ひとえに指導者の見識と決断力にかかっています。ただ、例外的に、『スギハラ・ダラー』でも取り上げた外交官、杉原千畝(ちうね)は、自らの「命のビザ」発行という一種の独断によってインテリジェンスサイクルを回した人物だといえるかもしれません。

--いわゆる日米同盟も50周年を迎えた

手嶋 日本は戦後、軍事大国を目指さず、軽武装、経済重視の路線を担保する手段として日米同盟を選びました。その方向性は間違っていなかったのかもしれませんが、米国の核の傘の下、戦後、冷戦後の世界に参画している実感が薄くなってしまった部分はあるでしょうね。

--今後、日本が進むべき道は

手嶋 日本はインテリジェンスの「情報大国」にならなければいけません。日本人にも優れたインテリジェンス感覚はあり、かつては杉原千畝や石光真清(いしみつ・まきよ)(明治~大正期の陸軍軍人)、明石元二郎(日露戦争などで活躍した陸軍軍人)といった優れたインテリジェンスオフィサーを輩出しています。若い人にはその感覚に一層磨きをかけ、新しい世界を創造的に歩んでほしいのですが、あまり説教するのもやぼですので(笑)、私は物語を紡ぎ出していくことでそれを伝えられればいいですね。(三品貴志)

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