手嶋龍一

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鳴かずのカッコウ

「諜報の日英同盟」で活躍

 「ウルトラ・ダラー」、その続編「スギハラ・サバイバル」刊行から11年ぶりの「現実の事件が物語を追いかける」インテリジェンス(諜報)小説だ。

 今回の主人公は、公安調査庁調査官で、日本のマンガが大好きなオタク青年。警察や防衛省などの情報機関に比べ人材の資金も乏しく、武器も所持しない最小で最弱とされる公安調査庁に属する脱力系青年が、神戸を舞台に中国、北朝鮮、ウクライナの組織が入り乱れた国際諜報戦で「大金星」をあげる。極東の島国に突然変異種の「カッコウ」が現れたのである。

 「英国は米英など英語圏5カ国が機密情報を共有する『ファイブ・アイズ』に日本を招こうとしている」。2017年9月。ロンドンのチャタムハウス(英国王立国際問題研究所)で開かれたセミナーで渡英した筆者とロンドン特派員だった評者は、こんな会話を交わした。

 日本を「同士」と認めた英国から、情報戦で連携しようとのメッセージである。覇権志向を強める中国の脅威が高まり、昨年9月、ジョンソン英首相が議会で、「日本のファイブ・アイズ加盟は英国の考えだ」と述べ、英国のラブコールはようやく広く知られることになった。

 半歩先んじて近未来を見通す著者は、米国への安易な依存から脱却し、日本がいまこそ自立して英国と手を携え、価値ある自前のインテリジェンスを紡ぎだす時代になったと訴える。熾烈な国際諜報戦で出遅れてはいけないとの危機感が漲っている。
 脱力系の主人公は、対立を深める米中が神戸で諜報戦を繰り広げている事実を突き止める。読者の興を殺がないよう驚愕の結末を書くことは控えるが、著者のベストセラーで活躍した伝説の英国情報部員、スティーブンが物語の後半で姿を見せることだけ予告しておこう。

 海軍力で米国を上回った中国は尖閣諸島から台湾まで侵攻を視野に対決姿勢をあらわにしながら機をうかがう。前作で日本が重要な舞台となったが、日本の情報戦士の姿はなかった。そんな日本の情報機関に突如降臨した青年は、情報大国のインテリジェンス・オフィサー相手に息詰まるような活躍を見せる。

 本書こそ近未来を精緻に見通す一級のインテリジェンスだ。

 評:岡部伸(産経新聞 論説委員)

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