手嶋龍一

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手嶋流「書物のススメ」

Japan Restored『日本復興論』の読み方  チャールズ・イ・タトル出版

書評  プレストウィッツ氏は、政治学者のチャルマーズ・ジョンソン氏らと共に1980年代の後半に「ジャパン・バッシャー4人組」と呼ばれた一人だ。彼らリビジョニスト(修正主義者)が全盛期にあった当時、NHKのワシントン特派員だった私はプレストウィッツ氏本人に幾度もインタビューした。

 彼は当時、「第二次世界大戦の真の勝利者は、その後の繁栄ぶりを見れば、アメリカではなく、日本とドイツではなかったのか」と主張し、日本の通貨「円」、そして日本の銀行が世界を席巻すると予想していた。だが、当時の私は、彼の買い被りだと考えた。日本の金融機関にはさほどの実力なしと主張し、事実、その通りになった。

 その彼が一転して、日本を称賛する書物を著したと聞いて早速読んでみた。

 よく読めば、日本について書いてあるように見えて、じつはアメリカを論じている書だとわかるだろう。

 冷戦が終わるとともにアメリカの影響力は相対的に落ちつつある。だがアメリカは今後も世界で影響力を持つ存在であり続けたいと考えている。しかし現実には中国が新興の大国として、経済的、軍事的なプレゼンスを高めている。その証拠に中国は、太平洋をアメリカと二分すると豪語し、日付変更線のこちら側は中国の影響下にと考え始めている。こうした状況下で、プレストウィッツ氏は、力の空白を中国にではなく、同盟国の日本に埋めてもらうほうが、アメリカの国益に適っていると考えたのだろう。

 そのためには日本の現状を改めてもらわなければいけない。安全保障分野での消極的な姿勢を刷新すべしと結論するに至ったのだろう。プレストウィッツ氏は「日本が憲法を改正して、正規の軍事力を保有し、さらに非核政策も改めなければならない」と主張する。これまでの安全保障上のタブーをことごとく改めることで日本が東アジアで中心的な役割を担う存在となり、インド、豪州、ニュージランドと戦略的な連携を強化して、ASEAN諸国をも惹きつけて、アジア・太平洋地域の安定に寄与してもらいたいと期待している。

 だが、安全保障で指導的な立場に立つには、経済の再建がカギになる。。女性の社会進出を促し、出生率を高め、ロボットや人工知能など科学技術を駆使して、日本が科学技術のセンターになるべしという論旨が展開されている。

 『JAPAN RESTORED』は単純に「日本称賛論」として読むのではなく、力衰えたアメリカの現状を映しだす鏡としての「日本復興論」として読まれるべきなのだ。アメリカの影響力が衰えつつあることを認めながら、これまで以上の影響力を保持する一種の処方箋なのである。それが彼の「日本復興論」である。

 日本は外の世界からどう見られているか、他人の評価をひどく気にしてきた。かつて米国の社会学者エズラ・ヴォーゲルの「ジャン・アズ・ナンバーワン」がベストセラーになった。しかし、いまや日本叩きの本が出ても、もう過剰に反応しなくなった。日本の世論もぐんと成熟してきた。

 そこに未来の逞しい日本の姿を見出したい。外部からの評価を気にする日本人は概してこうした書物が好きだった。

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