「名声と悪罵のはざまに揺れるアメリカ」(週刊文春)
『ベスト&ブライテスト』(デヴィッド・ハルバースタム著 ニ玄社)
ケネディ政権は最良にして最も聡明な人材を集めながら、なぜベトナム戦争の泥沼にはまり込んでいったのか。戦後のアメリカが生んだ傑出したジャーナリストが挑んだノンフィクション作品の最高傑作。著者は先年事故で急逝してしまった。生前、「何ゆえあれほどの秀才たちが安易な力の行使に駆られてしまったのか、その果てに5万人の若者を死なせてしまったという怒りが自分に筆を執らせた」と語った著者のまなざしをいまも忘れられない。
『日米交換船』(鶴見俊輔他著 新潮社)
『ベスト&ブライテスト』とは秀才たちの「一番病」が引き起こした戦争を描いた作品だ。だが、どの国も優等生がいまだに社会の中枢としても居座り続けている。鶴見俊輔は破天荒な経歴をもつ知識人なのだが、そんな鶴見が「一番病」に罹っていたハーバード大学時代の興味深いドキュメントだ。戦時下の1942年、ニューヨークの埠頭をグリップホルム号が、横浜桟橋からは浅間丸が、上海の岸壁からはコンテ・ヴェルデ号が、それぞれアフリカ東岸のロレンソ・マルケス港に向けて出港した。第一次交換船だ。鶴見俊輔も乗客のひとりだったのだが、この交換船こそ「一番病」と訣別する船旅となった。太平洋戦史の空白を埋める奇書と言っていいだろう。
『真珠湾からバグダッドへーラムズフェルド回想録―』(ドナルド・ラムズフェルド著 幻冬舎)
イラク戦争の首謀者として悪評を浴びているブッシュ政権の国防長官。この人と身近に接した者として、世評と実像にこれほど落差のある人物も珍しいと思う。名声と悪罵の狭間にある国防のプロフェッショナルの自伝的回想である。そして最年長で2度にわたって国防長官を務めた人は、知らないことを自覚していることの大切さを本書で説いている。我が野田総理は「無知の知」を説いて防衛相をかばっているが、ぜひ本書の一読をすすめたい。