手嶋龍一

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手嶋流「書物のススメ」

手嶋龍一が薦めるビジネス書

 人生の選択を人任せにできない時代に向けて、まずその舵取りをしてくれる一冊を探そう。
 円高にデフレ、中国問題と日本の経済、外交はどうなる・・・。明日はどこをめざせばいいのか、激動の世界経済に耳を傾け、目を向けなければ道は見えてこない。
 いまこそ役に立つ一冊を賢く選ぶためのヒントを、世界を舞台に活躍する手嶋龍一さんに教えていただいた・・・。

 日本経済を担うビジネス戦士にとって、自己啓発は大きな課題です。それに一役買ってくれるのがビジネス書。だが、いざ読もうとすると「?」。星の数ほどある書籍を前に途方に暮れてしまう。そこで外交ジャーナリスト・作家として活躍する手嶋龍一さんに伺ってみた。

「ビジネス書と呼ばれる書籍の中にはノウハウ本が少なくありません。しかし、個人的には、経済、政治、歴史・・・と、ひと通りの分野で基本的なものを読んだほうがいいと思う。結果的には自分の能力を大きく伸ばすことになるのではないでしょうか」

 そこでまず、手嶋さんが推奨するのは、日経BPクラシックス。世界中で読まれてきた経済、政治哲学などの古典名著の新訳シリーズだ。

「最近、出版界に2つの“革命”が起きています。ひとつは翻訳の革命。かつては、自動翻訳機にかけたような日本語で、理解しがたいものが数多くありました。ところが最近では、優れた翻訳本がたくさん出始めている。いい例が、日経BPクラシックスのシリーズ。マックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』やヘンリー・ハズリットの『世界一シンプルな経済学』などがありますが、いずれも非常に平明でわかりやすい。旧訳を読んで意味不明と感じた人でも、“なんだ、こんなことを言ってたのか”と霧が晴れるはず。わけがわからなかったのは訳が悪かっただけで、本来、一流学者の名書は非常に分かりやすく書かれているものなのです」

 そしてもうひとつの“革命”は“池上おじさん”的出版物の出現。

「ジャーナリストの池上彰さんは、ニュースを公正な立場でわかりやすく解説していますが、実はこれは革命的なこと。ニュースを基本からじっくり理解したいという潜在的な需要はあったのに、誰もこの未開の地に分け入っていかなかったんです。書籍にしても、さまざまな事柄について、それぞれの立場で一方的に主張するものが多かった。読者にしてみれば、何が本当なのかわからなくなってしまいますよね。ところが最近は、池上さんのように、ひとつの事柄について、フェアな立場でわかりやすく解説する質の高い本が数多く出るようになっているんです」

 そのひとつとして手嶋さんがすすめるのが、江守正多著『地球温暖化の予測は「正しい」か?』。

「環境問題は百家争鳴。一般人には何が真実かわからなくなってきています。そんななかで、環境という非常に難しいテーマについて、正確に、かつレベルを落とさすに解説されたのがこれです」

 このほか、手嶋さんが読者諸氏のために挙げてくれたのは、デイビッド・ハルバースタム著『ベスト&ブライテスト』(全3巻)と、石光真人著『ある明治人の記録―会津人柴五郎の遺書』。

「前者はアメリカが愚かなベトナム戦争にどうやって迷い込んでいったかを描いた大河ノンフィクション。20世紀に書かれたノンフィクションでは間違いなく最高峰のひとつに挙げられる傑作です。しかも翻訳も素晴らしい。名作の名訳として、是非おすすめしたい一冊です。一方、後者は、会津藩士の息子として生まれ、のちに陸軍大将になる柴五郎の少年時代の物語。会津戦争の敗者として味わった数々の困難を乗り越える姿に心を打たれ、魂が癒されます」

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