『アメリカでさえ恐れる中国の脅威!「米議会調査機関」の核心レポート』 古森義久 著
インテリジェンス感覚磨ける
21世紀初頭は中国が既存の世界システムに挑戦した時代だった-後世の歴史家はそう記すことになるだろう。それほどに私たちの眼前に現れる中国の姿は驚きの連続だ。リーマン・ショックからいち早く立ち直り、企業買収チームばかりか、爆盗団まで送り込んでくるさまは、津波のようなエネルギーに満ちている。
だが、そんな国と隣り合わせの日本には、相手の肺腑(はいふ)を射抜くような中国報告が少ないと古森義久は苛立(いらだ)たしげだ。「日本の中国情報には偏向や制限がある」からだという。過酷な状況下で北京特派員を務めた経験がそう言わせているのだろう。
そんな古森にとって、アメリカ議会の調査機関である「米中経済安保調査委員会」の中国報告は、価値あるものと映ったに違いない。いまや世界の行方を決めると言われる「G2」。そんな米中の間柄が、超大国アメリカの安全保障にいかなるインパクトを与えるかを巨視的に検証した報告書だからなのである。
中国政府は、人民元を意図的に操作し、巨大な国営ファンドを経営し、大量破壊兵器ばかりか、国家主権そのものを域外に拡げようと策し、サイバーと宇宙空間へも進出を図っている-。報告はこうした6つの分野に焦点を絞って、新しい中国像を描きだそうと試みている。
「長期の経済成長の疾走は、政治改革の足がかりではなく、むしろ逆に中国共産党の永続統治の正当化に利用されてしまった」
共産党支配を正当化するテコとなっているのは、対米輸出を柱とした経済成長であり、それを支えているのは不当に低く操作された人民元の為替レートだと古森は解説する。確かに報告では、人民元のレートが市場の実勢より30%ほど低く抑えられているという民間のシンクタンクの分析を援用している。
こうした本書の結論を読者が受け入れるのか、論争を巻き起こすに足る内容だ。この報告書と古森解説にみられる微妙な体温差も見逃せない。ふたつを読み比べてインテリジェンス感覚を磨くのに、これほど格好の著作はない。(古森義久著/ワック・1575円)
産経新聞 2010年2月14日付掲載