「インテリジェンス入門」「原発・正力・CIA」「水俣から、未来へ」
書評アンケート
(1)「インテリジェンス入門-利益を実現する知識の創造」(北岡元 著、慶應義塾大学出版会)
わが国が他の先進国から著しく遅れをとる分野の一つがラスプーチンこと佐藤優氏の活躍で知られるようになった「インテリジェンス」である。情報機関として内閣官房に「合同情報会議」と「内閣情報調査室」があるが、残念ながら政治からの理解が進まず、十分に機能しているとはいえない。最大の要因は「インテリジェンスリテラシー」の欠如であろう。本書は、「インテリジェンス」の基礎的な概念と理論を紹介するとともに、国家安全保障の側面からだけではなく、欧米で導入が進む「ビジネス・インテリジェンス」の概念も伝えている。グローバリゼーションが進むビジネスの現場におけるインテリジェンスの実践方法を提示した最良の入門書といえる。
(2)「原発・正力・CIA―機密文書で読む昭和裏面史」 (有馬 哲夫 著、新潮新書 249)
戦後政治が最も華やかであった保守大合同の時代。石橋湛山、緒方竹虎など、メディア界の重鎮が政治家として、華々しく活躍するなか、讀賣新聞社主・正力松太郎は遅ればせながら衆院議員に当選、政界へ進出した。総理大臣の座を狙う正力は、自ら率いる讀賣新聞と日本テレビを武器に、原子力に好意的な親米世論の形成を狙うCIAとの駆け引きに出る。圧巻は、CIAと正力の「利益」に対する徹底ぶりである。その執念には感服する。
(3)「水俣から、未来へ」(熊本日日新聞社編、 岩波書店)
水俣病の公式確認から半世紀余りを経た今もなお、多数の被害者が救済を待たねばならない状況に置かれている。膨大な未認定患者が高齢化や症状の悪化に苦しむ一方で行政と原因企業による対応は遅々として進まない。現地でのルポ、海外取材を通じてこの問題を丹念に追った熊本日日新聞の連載を中心に再編集した本書は、水俣病問題が過去のものではなく、むしろ深刻化しているのだという現実を我々に突きつけている。そうした状況下で、水俣の未来を前向きに探ろうとする若者たちや市民の取り組みにも目を向け、水俣病問題の「今」を精緻に伝えている。