手嶋龍一

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アジアインフラ投資銀行 事態読み誤った日本

 東アジアの地にいま巨大な開発銀行が誕生しようとしている。50カ国もの政府が12兆円を超える資本金を分かち合うAIIB(アジアインフラ投資銀行)がそれである。
 提唱者は新興の大国、中国であり、大陸縦貫の高速道網や大規模な灌漑施設などに低利の資金を供給し、アジア半球を世界経済の更なる推進エンジンにしようという壮大な構想である。

 米国を過大評価

 だが、中国に次ぐ経済大国、日本は、AIIB設立を巡る情報の戦いに後手に回ってしまった。その影響はTPP(環太平洋パートナーシップ協定)を巡る大詰め攻防に影を落としている。日本の官僚と政治家は、二つの点で事態を読み誤った。中国の影響力を過小評価し、米国の影響力を過大評価してしまったのである。
 米国のオバマ政権は当初からAIIBの設立に冷ややかだった。中国が影響力を増す手段とみなし、世界銀行やアジア開発銀行の領域を冒すものと受け取ったからだ。「組織の運営で透明性に欠ける」と中国を難じて参加に後ろ向きだった。日本はこうした米国に追随し、欧州などの主要同盟国も参加しまいと読んだ。
 だが、血を分けた米国の同盟国と形容される英国が叛旗を翻してAIIBに早々と投じたのである。一国の影響力は、経済の実力を忠実に映し出す――。英国はかつての基軸通貨ポンドの首座をドルに奪われた苦い経験から、新興の大国が意思決定の主導権を握る勢いを肌で感じ取ったのだろう。英国の参加表明がきっかけとなって欧州の主要国は雪崩を打ってAIIBに参集することになった。
 日本の官僚と政治家は、超大国アメリカの統制力が、AIIB問題で欧州の主要同盟国になお効いていると判断し、米国と共に参加を表明せず、孤立する事態を自ら招いてしまった。
 中国はAIIBの設立をステップに、中国の通貨元の地位をより高めようとしている。基軸通貨であるドルの地位にとって代わるには中国経済はあまりに多くの問題を抱えている。中国当局もその現実をよく知っている。その一方で中国は、70年あまりに亘って基軸通貨の首座に座り続けてきた米国を射程距離に収めるまでになったと考え始めた。

 自信深める中国

 中国政府は当初TPPに反対し、日中韓の自由貿易連携を軸にASEAN諸国を加えた新しい交易圏を目指していた。しかしTPPが一足早く発足する形勢をみて、TPP参加に含みを残していたが、AIIBの創設で自信を深めたのだろう。中国包囲網としてのTPPを打ち破ることができると、中国を中心とする貿易圏の構想に回帰しようとしている。一方の日本政府は、TPP交渉でアメリカに日本の主張をいまだに呑ませることができず、AIIB問題でも情勢を読み誤り、情報小国ニッポンの脆弱さをさらけ出している。

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