手嶋龍一

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環日本海の時代幕開け~金沢が重要な交流拠点に~ (北國新聞)

海外進出支援を強化

手嶋 石川のモノづくり企業は、意を決して東アジアに乗り出しつつあります。中国だけでなく、プーチン氏が大統領に返り咲くロシアも視野に収めようとしている。
 プーチン次期大統領はアジアと欧州を結ぶシベリア鉄道の高速化を進めようとしています。日本や中国、韓国の成長を見込んで輸送需要を喚起するのが狙いです。アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が今年9月に開催されるウラジオストクから日本列島を見渡すと、金沢港や新潟港が真っ先に飛び込んできます。環日本海時代の幕が開くなか、金沢は北東アジアの重要な交流の戦略拠点になる可能性を秘めています。

安宅 金沢港は昨年11月、北東アジアとの貿易や観光の核として国土交通省が発展を支援する「日本海側拠点港」に選定されました。これもアジア、環日本海の時代をにらんだ動きと言えましょう。石川県内企業のアジア地域への進出は、ここ10年で倍増しています。これに対応して、当行も地元企業の海外進出の支援態勢を強化しています。中国では中国工商銀行、大連銀行、江蘇銀行の3行と業務協力の覚書を交わしたほか、当行取引先の現地法人に行員を出向させ、財務、総務の仕組み作りなどを支援しています。

地元銀行は情報バンク

手嶋 地元企業が海外に社員を出すのは、可愛い娘を嫁に出すようなもので心配です。その点で地元の銀行が支えになってくれるのはやはり心強いですね。また中国企業にとっても、銀行が仲人役をつとめてくれれば安心です。

安宅 今年4月には、当行と業務提携する大連銀行がお客さま50人を金沢に連れて来られて、石川県内企業と貿易や生産委託、技術・販売提携で商談を繰り広げます。昨年は大連でも商談会を開きました。こうした相互交流の地道な取り組みから、ビジネスは着実に拡大していくと考えています。

手嶋 超円高の時代、地元企業にとって海外展開は重要な選択肢です。それだけに長い取引があり、頭取の顔も見える北國銀行が後ろにいてくれれば心強いはずです。

安宅 これからも地元企業の優れた技術を発掘し、商談会などを通じて国内外に広めていくお手伝いをしていきたいですね。

新幹線開業に向け新拠点

手嶋 いまモノの流れで大きな革命が起きようとしています。地球温暖化によって北極海の氷が減り、欧州とアジアを結ぶ「北極海航路」が出現しようとしています。この航路を利用して欧州北部から東アジアへ抜ければ、スエズ運河からマラッカ海峡に至るルートよりも距離にして3分の2に短縮されます。これはスエズ、パナマ運河開通以来の出来事と言っていいでしょう。北極海航路の商業利用、先ほどのシベリア鉄道の高速化で、欧州と金沢、北陸との物流の時間、距離の短縮化が図られます。その結果、東アジアにおける金沢、北陸の戦略的価値はぐっと高まると期待しています。

安宅 北陸は国内的に見ても、すでに重要性を増しています。東日本大震災を契機に、リスク分散の観点から、企業が地震の少ない北陸地域の重要性を見直し、太平洋側に集中していた工場の一部を移転するほか、IT情報センターを北陸に移すなどの動きが加速しています。さらに、2014年度末に北陸新幹線金沢開業となれば、東京と金沢は2時間半で結ばれて利便性が高まり、企業活動における金沢、北陸の魅力は一段と高まります。

安宅 大きなホールを備えた当行の研修拠点を想定しています。駅近くで交通の便もよいので、取引先の研修にも使っていただきたいですね。金融面の研修をされるのであれば、われわれも講師を務め、地元企業の人材育成をハード、ソフト両面から支援していきたいと考えています。

際立つものづくりの底力

手嶋 北陸には先端的な技術を研究する大学があり、ものづくりのシェアナンバーワン企業も数多くあります。ものづくりに賭ける北陸の底力は際立っています。

安宅 石川県は文化度、ものづくりの技術レベルともに極めて高いと言えます。石川県には機械工業を中心に「すきま市場」でシェア1位のニッチトップの企業が実に多く育っています。根っこには藩政期の伝統工芸をはじめとした手技の伝統があり、その上に立って新たなものづくりに挑んだ事例が目立ちます。長い歴史に裏打ちされた技術の土壌、ものをつくる発想力の蓄積があるのでしょう。

手嶋 米国の国防総省の高等戦略技術局の担当者から「最新鋭の航空機エンジンは、北陸生まれの工作機械なしにはつくれない」と言われたことがあります。ものづくりのすそ野がどれほど広く深いかを物語るものであり、まさしく日本の強みを体現しています。

「目利き能力」が大切

安宅 アジア、環日本海の時代を切り開いていく将来性ある地域企業を発掘し、育成していく上で大切なのは、行員の「目利き能力」です。この能力を磨くには、行員が企業の現場に足を運び、技術力や社風、社長の人柄まで肌で感じて実情を十分理解する必要があります。

手嶋 地元の銀行が「目利き」として将来性のある企業を発掘し、成長を支えることは、アジア、環日本海の時代を我らが時代とするためにも重要です。地域全体を飛躍させる役割を大いに期待しています。


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