手嶋龍一

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代表的日本人のことば

 「じぶんと、じぶんの故国との間に氷炭相いれないものがあった場合、居るをいさぎよしとしない精神の潔癖」  金子光晴

 漂白の詩人、金子光晴は、祖国を捨てる「亡命とは何か」をこう明晰に定義したのだった。同時に戦前にアジアからパリを彷徨ったのは、亡命に非ずと弁じている。

「僕の旅の場合は、亡命などという名にあたるものではなく、それは全くやくたいもない乞食旅というだけのことであった」

 一筋縄ではいかない抵抗者、金子光晴の韜晦(とうかい)に惑わされてはいけない。この詩人はやがてアジア・太平洋戦争に突き進んでいく黒々とした祖国の意匠に添い寝することを潔しとせず、その高貴な精神をマレー半島からスマトラ島にかけての乞食旅に浸したのだろう。その果てに生まれた『マレー蘭印気候』の気高さに触れれば、この詩人が何者であったか分かるだろう。現代日本のありようとは相容れないと嘆く人は多いが、金子光晴のように逃遁したひとを他に知らない。



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