手嶋龍一

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NHKスペシャル(2004年6月13日放送)

21世紀の潮流“アメリカとイスラム”
「カリブの囚われ人たち ~対テロ戦争もうひとつの最前線~ 」

Part I.

手嶋龍一/ワシントン支局長
 グアンタナモ基地の当局者は、このとき、収容者たちに公正な裁きを受けさせると約束しました。 しかし、未だに収容者への裁きはなく、軍の裁判に臨むことができる者もほんの一握りに過ぎません。 アメリカという国は『すべてのひとは、神のもとに平等に創られ、等しく自由を享受できる』と高らかに宣言して建国された“理念の共和国”です。 ところが、こうした海外のアメリカ軍基地には、建国の礎となった崇高な理念が及ばないことをブッシュ政権自らが認めています。

ラムズフェルド国防長官
 「いまグアンタナモに収容しているのは、アフガニスタンという名の戦場で捕らえた連中だ。だが、彼らを裁判にかけて刑務所に送り、罪に問おうとしているわけではない。我々は、戦闘地域から彼らを隔離してしまうことで、再び武器を携えてテロの戦線に戻らないよう身柄を抑えているんだ」

 “They were people that were picked up on the battlefield in Afghanistan, and they were” brought to Guantanamo Bay. The purpose was not to punish them, that is to say, take them before court, try them, send them to jail because they had been bad and were trying to kill Americans and Afghans.”
 “The purpose, as in most wars, was to get them off the battlefield, to keep them from going back and fighting again and killing people.”

手嶋龍一/ワシントン支局長
 アメリカ政府は、予防拘束といった非常の手段に訴えても、あの九月十一日のような事件を再び許さないというのです。 『姿が見えない敵と戦うには、疑わしき者を拘留しておくことをためら訳にはいかない』として生まれたのが、このグアンタナモの収容施設でした。 戦争に関する国際法もアメリカの国内法も及ばないこのカリブの軍事基地に収容し、徹底した尋問を通じてテロ情報を自白させる。 こうした“グアンタナモ方式”はイラク戦争の際にも適用され、各地の収容施設でアメリカ軍兵士が数々の虐待事件を引き起こす出発点となったのでした。


Part II.

手嶋龍一/ワシントン支局長
 アメリカ軍の当局者は、収容者をジュネーブ条約にいう戦時捕虜と認めていないにもかかわらず、捕虜の保護をうたったこの条約を盾に、収容者の顔を映した映像を消すよう我々に求めました。 収容者たちは、民間人を装った“テロ戦争の戦闘員”であり、戦争法規で保護を与える必要などない。 こう言い切ったのは、ネオコン・新しい保守主義の代表的な戦略家でブッシュ政権をイラク攻撃へと向かわせたリチャード・パール氏でした。

リチャード・パール国防政策委員会議長(当時)
 「グアンタナモに彼らを収容しているのは、尋問を通じて貴重なテロ情報を引き出すためです。だから、収容者を法に拠って裁きをくだす犯罪の容疑者とはそもそも見なしてはいない。あくまでもテロ戦争の“敵の戦闘員”と見ているのです。戦争で敵の戦闘員を捕らえて情報を引き出す、これは完璧に正当な行為ですよ」

 “The reason for keeping them in detention is the hope that we well get valuable intelligence from interrogating them. We regard them not as criminals who should be dealt with in the criminal justice system with lawyers and courts and all the rest, but as enemy combatants in a war. Holding combatants in a war, trying to persuade them to tell us what they know, that’s perfectly normal.”

手嶋龍一/ワシントン支局長
 このパール氏こそ、政権内にあって国際テロ組織がアメリカの中枢を狙うのに先んじて、攻勢に出るべきだと「先制攻撃」の戦略を唱えた中心的な存在でした。 パール氏は「疑わしき者は先んじて拘束し、テロ情報を搾り取る」として、情報の分野でも先制攻撃をと訴えたのでした。 アメリカを狙うテロリストとみた者たちを徹底して尋問し、吸いあげたテロ情報の断片をジグソー・パズルのように繋ぎ合わせて行く。 こうして見えざるテロのネットワークをあぶり出し容赦なくメスを入れる。 アメリカがかつて手にしようとしなかったこの鋭利な武器こそグアンタナモ方式だったのです。


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