手嶋龍一

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これが私たちが望んだ日本なのか

 いま我々の眼前に拡がっている政治の不毛は、民主党の失政のゆえではない。日本の病根はもっと深いところにある。日米同盟の負の側面が生んだ結果だと言っていい。戦後のニッポンは、米国と安全保障同盟を結ぶことで、軽武装・経済重視の道を歩んだ。そして、ただ一個の地雷も輸出することなく経済大国となった。それは世界に誇っていい。だが同盟は獰猛な毒を孕んでいる。超大国にひっそりと身を寄せているうち、外交や安全保障を最重要の使命とするはずの政治が、小さな利害の調整に堕していった。志のある若者はそんな仕事に生涯を捧げようとはしまい。

 吉田茂は、経済重視・軽武装を唱えた「吉田ドクトリン」の創始者だとされるが、本人はさぞかし戸惑っていることだろう。自主武装を回避したのは、貧しかった敗戦国の一時の便法にすぎなかったからだ。だが、その後の日本は超大国の軍事力にぴたりと寄り添ったまま、同盟に潜む毒が総身に回るに任せたのだった。その果てに政治の指導力は痩せさらばえていった。いまの民主党政治が貧困なだけではない。それに代わる政権党が見当たらない。そこに危機の本質はある。野にいる自民党は、民主党の凋落に拠りかかって、解党的な自己改革をしようとしていない。あんぐりと口を開けて、政権復帰に望みをつないでいるにすぎない。サッチャーの保守革命は、英国保守党の血の滲むような自己改革のゆえに成ったことを忘れてはなるまい。

 いまの政界に人材がいないなら、外から新鮮な血を入れるほかない。サッカーの日本代表監督にザッケローニ氏ではダメだという人はいまい。日本の土壌に外国人を迎えて政治のハイブリッド化を試みてはどうだろう。最高顧問会議でもよし、臨時に議席を用意してもよし。英国にジョン・メジャー元首相あり、東アジアにリー・クアンユー氏あり、米国にビル・クリントン元大統領がいる。彼らならニッポンの潜在力を存分に引き出してくれる。

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