手嶋龍一

手嶋龍一

手嶋龍一オフィシャルサイト HOME » 著作アーカイブ » 2010年

著作アーカイブ

「沖縄の民意」

 普天間基地の移設を争点に沖縄知事選が行われた那覇で筆を執っている。在日米軍基地を日本から撤去すべしとする革新陣営に支持された伊波洋一前宜野湾市長。これに対して普天間基地の県外移転を求めながらも日米同盟は必要だとする仲井真弘多知事。結果は仲井真陣営が3万8千票の大差で伊波陣営を退けた。

 国土の0.6%に74%の米軍基地がひしめく沖縄の現実。その一方で尖閣沖の中国漁船衝突事件で日米同盟の重みはかえって増している。この二つの現実を前に米軍基地の新たな移設先を日本全体の懸案として考えてほしい―これが知事選挙で示された沖縄の民意なのである。

 仲井真知事は選挙後のインタビューで「米軍飛行場の移設候補先地として関西空港を視察したい」と述べた。この仲井真発言に応じて基地の負担を全国の自治体が等しく担うべきだと唱えてきた大阪の橋下知事が「視察するなら関西空港ではなく、黒字化のめどがたたない神戸空港がいいと思う」と述べた。

 ふたりの知事の応酬に接して、鳩山前首相の惨めな失敗から何も学んでいないと指摘せざるをえない。現実的な政治の選択肢となっていない候補地を思いつきで挙げつらい、地元にいたずらな混乱を招き、その果てにアメリカ案に回帰していく―。

 沖縄の苛烈な現状を変え、日本国民すべてが重荷を分かち合う覚悟があるのか。中国が影響力を増すなか今後も日米同盟に依拠していくのか。これに国民が「諾」と言うなら、菅政権は沖縄県外に新たな基地を設ける案を取りまとめ、米政府を説得すべきだろう。地元の了解が得られて、かつ東アジアの米軍戦略に支障が出ないなら、オバマ政権は新たな合意をのまざるを得ないと思う。

「神戸新聞」に掲載

閉じる

ページの先頭に戻る