手嶋龍一

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オバマのエネルギー政策を読み解く(対談:鈴木達治郎氏)

グリーン・ニューディールの中で原子力は

手嶋 いよいよオバマ新大統領が誕生します。久々の民主党政権の出現で、とりわけ日本の原子力関係者の間には、カーター政権(一九七七~八一年)の悪夢が蘇ってくるようです。カーター大統領が原子力政策の大胆な見直しに踏み切った時、鈴木さんは何をなさっていましたか。

鈴木 大学院生です。東大の原子力工学科の卒業生で、そのままマサチューセッツ工科大学(MIT)に行って、二年生のときに、カーター政権の原子力政策の基本となる「フォード・マイター・レポート(ニュクリア・パワー・イシューズ・アンド・チョイセズ)」が出ました。

夏休みのサマージョブのアドバイザーがトムネフというスタンフォードを出たばかりの博士ですが、彼が正にレポートの著者の一人だった。名前は載ってないんですが、分析をした人だった。レポートが出て衝撃を受けて、彼に話をしに行ったら、「おれが書いた」と言って話を聞かされました。

あんなに幅広く原子力を包括的に分析した本はありませんでした。しかも、合理的に隅から隅までほぼ完璧に論理が構成されていて、これは勝てないと…。

手嶋 しかし、当時の日本では「日本はアメリカが取り仕切る核拡散防止体制の優等生として努めてきたのに、プルトニウムの利用に待ったをかけるとはどうしたことか」という反発が根強く、一種の嫌米ナショナリズムが台頭したほどでした。

鈴木 核不拡散問題と原子力の問題であれだけ明確に核燃料サイクル、特にプルトニウムについて「使わないほうがいい」と言ったことはなかったんですね。

その主な背景は二つあって、一つはそれまでエネルギー政策としてプルトニウム・サイクルを詳細に分析したレポートはありませんでしたが、その「フォード・マイター・レポート」でプルトニウムは経済的でないから、アメリカのエネルギー政策としては三〇年間は要らないと。

もう一つは、インドの核実験に対してプルトニウムを使う国が増えていくのはまずいという論理で、プルトニウムの大量利用はやめたほうがいいと…。

手嶋 「ブッシュのアメリカ」は、従来の核拡散防止体制の舵を大きく切ることになりました。インドの核政策を実態的に容認してしまった。核軍縮を求める国際社会から「アメリカはダブル・スタンダードだ」といわれても反論できないはずです。

鈴木 おっしゃるとおりです。

またブッシュのときに、カーター以来の「再処理は要らない」という政策をガラッと変えました。経済性が変わったからでも何でもなくて、廃棄物の処分に困ってしまった。これは世界共通の課題ですが、廃棄物の処分対策として再処理を言い出した。これは、日本の政策をコピーしたような感じです。

当時はアメリカだけがプルトニウム反対で、ほかの国はみんなプルトニウム賛成ですが、今は廃棄物問題についてはみんな同じ問題を抱えています。でも核不拡散の政策としては、ブッシュもオバマもカーターも「プルトニウムは使わないほうがいい」というのは全然変わってないですね。

手嶋 オバマ新政権は、北朝鮮の核問題への対応も抱えていますから、プルトニウムの管理ということでは、毅然とした姿勢を打ち出してくるはずです。その一方で、原子力発電については、歴代の民主党政権のなかでは、いまのところは、比較的柔軟な政策を打ち出してくると見られています。鈴木さんもそう考えていますか。

鈴木 たぶんそうだと思いますね。

手嶋 バラク・オバマという指導者は、イデオロギーに縛られた人ではない。したたかなほど柔軟です。経済政策で説明してみましょう。現下の情勢は、一九二九年の大恐慌以来の危機だといわれています。大規模な財政支出を余儀なくされていますから、大きな政府の系譜を継ぐリベラル派が経済閣僚をずらりと占めても不思議はないのですが、あまり見当たりません。市場重視のマネタリストやマーケットの実態に通じた実務派を多く迎え入れています。イデオロギー色の強い人事をしない人なのでしょう。

今後のオバマ政権の原子力政策を読み解くには、いま一度、カーター民主党政権の政策転換の意味を検証しておいたほうがいいと思うのですが。

鈴木 ハーバードとMITの人たちの話では、クールに冷静に客観的に原子力政策を見た、との話です。

それまでアメリカでは原子力政策は、非常に閉じられた人たちだけでつくっていた。ところが原子力委員会が二つに分かれて、エネルギー研究開発庁と、原子力規制委員会ができて、七四年くらいから原子力政策の民主化、という過程でした。 ですから、原子力政策にいろいろな専門家が意見を言う雰囲気が出てきた時期で、原子力発電所から生じるプルトニウムについても、「核兵器にならない」というのが通念だったのが「核兵器にもなるかもしれない」というレポートが出たり…。そういう背景で、ハーバード大学教授のジョー・ナイさんなど今まで関係なかった人たちが、原子力政策を徹底的に調べた本が「フォード・マイター・レポート」でした。

手嶋 特にナイ氏については、新しい駐日大使に起用されるという情報がありますので、原子力政策との関連でも動向が注目されます。日本ではとかく原子力関係者だけが、自分たちだけの利害と論理に拠りかかって、プルトニウムの再処理をはじめ核政策を作り上げてきた面が否めません。アメリカは社会科学の専門家を迎え入れて、寄り大きな視点から原子力政策を構築していこうとしています。やはり超大国としての懐の深さでしょうか。

鈴木 ですから、MITの原子力工学科の人たちもびっくりして、「原子力を知らない連中がこんなレポートを書いた」と言って怒っていました。もちろん何人か原子力工学専門の方が入っていますので、中で議論もあったと思いますが、今まで私が読んだ原子力のレポートではピカ一です。今読んでもそんなに古くない分析です。

手嶋 アメリカは大統領が替われば政策も変わります。これが大統領制の凄まじいところです。政権が変われば、閣僚だけでなく、三五〇〇人を超える政治任命の高官が交代します。政策の舵を切るには丸ごと人も入れ替えてしまうのです。カーター政権の原子力政策の変更もそれゆえに可能だったのです。 鈴木 まずは、「原子力の中で経済合理性のないものについてはやめていいでしょう。エネルギー政策としての意味がない」と。

だからといってプルトニウムのリサイクルを「全部やめろ」とは一言も書いてなくて、「三〇年間延期する。これをやってもアメリカは損をしないし、むしろ経済的にはメリットがある。研究開発は継続する。核不拡散上、アメリカが核燃料サイクルをやめることにより、ほかの国にやめさせる」と。

ただし、日本に対しては命令をしました。「東海村の再処理工場を動かすな」と。

日本は濃縮ウランをアメリカから全部輸入していましたので、原子力技術の移転も全部含めて、日米原子力協定を結んでいて、当時は、その中に使用済燃料の再処理は毎回、一回ごとにアメリカの事前同意が必要と書いてありました。東海再処理工場で初めて再処理をたくさんするというときに、カーターの政策が変わって、アメリカは事前同意権を持っていますので、再処理を止める権利があります。

それから長い交渉が始まって、レーガン大統領のときの八八年に新しい協定を結んで、そのときに包括同意制が入って、「三〇年間のパッケージでプルトニウムを使っていい」という協定になっています。日本は一九八八年から三〇年間は自由に使える、という許可を得ているんですね。

手嶋 私はワシントン特派員として、この日米交渉と米議会の動きを取材しました。八八年協定もすんなりと議会の同意を得られたわけではない。当時の松永駐米大使は、文字通りひざ詰めで有力な上院議員を落としていった。共和党のシンプソン上院議員に取材した折。一般の陳情者に混じって松永大使の姿がありました。「どうしたんですか」と尋ねると「いやシンプソン議員が出てくるまで待ち構えている」と。それほど苛烈な交渉だったのです。納税者の立場からは、ああいう大使には税金をどんと払ってもいい(笑い)。

鈴木 廃棄物の問題は、当時より今のほうが深刻です。その結果、再処理をしなければいけない、という国は出てくるかもしれません。それから原子力ルネッサンスと言われて、これは七〇年代と似ていますが、新しくたくさん原子力をやりたい、という国がまた増えるかもしれない。

今アメリカが心配しているのは、濃縮工場を自国でつくりたいという国です。濃縮工場そのものも核拡散のリスクが当然ありますが、自前で濃縮工場を持ってしまったら、政治的にはアメリカの影響力がどんどん落ちます。アメリカはもうすでに世界での濃縮市場の支配力は落ちています。

オバマさんで、まず一番気になるのは、放射性廃棄物の最終処分場の候補になっているユッカマウンテンだけは明確に「反対」と述べていることですね。

今ちょうど二〇年くらいかけて許認可に入ろうとしているときに、科学的な不確実性などを理由に、新しいエネルギー省長官になられるスティーブン・チューさんも懸念を表しているということで、長期的には世界の原子力全体の逆風になる可能性はありますね。

でも、アメリカの場合、使用済燃料の貯蔵場所を確保する法律をたぶん出すと思いますが、国内で合意ができて、五〇年でも一〇〇年でも長期貯蔵をしても大丈夫だ、ということがアメリカの規範として確立されれば、世界的に「貯蔵しておけばいいんだ」ということになります。

手嶋 ユッカマウンテンは不可。だが長期貯蔵の構想は提示する、となれば、適当な候補地を想定しているのでしょうか。

鈴木 いくつか方法があります。技術的には発電所の立地点に置いても全然問題ありませんが、地元が反対するかもしれません。

手嶋 それは最終処分でなく、中間貯蔵ということになりますね。

鈴木 ええ。中間貯蔵の可能性を追求すると思いますね。これが実現しないと、やはり処分場の延期はなかなかできないので。

手嶋 オバマ新政権は、最終出口としてユッカマウンテンを充てることは同意しない。こう主張しながら、原子力発電自体については必ずしも否定的ではない。

それだけ、厳しいエネルギー事情を考慮しながら、温室効果ガスの削減に努めるのは、難しい挑戦なのです。現にヨーロッパでも、原子力発電は、フランスを除けば各国とも後ろ向きでした。しかし、ここにきて一時とはいえ、原油価格が一バレル一四九ドルという高値を付け、エネルギーの確保は足元に火がついてしまった。原子力発電はやらないとしていたドイツですら見直に動かざるを得ない情勢です。

そうして情勢を見据えて、オバマ新大統領は、エネルギー長官に一級のプレーヤーを起用しました。これもオバマ流のバランス感覚でしょう。

鈴木 新長官のスティーブン・チューも一流ですよ。 彼はローレンス・バークレー国立研究所でも、エネルギー研究開発の専門家なので、政策をどれだけうまくやれるかわからないんですが、いわゆるカリフォルニアのエネルギー技術のトップですので、カリフォルニア・エネルギー政策がそのままワシントンに行くようなものだと思います。

ということは、再生可能エネルギーや省エネルギーが頭の中に入っていて、「原子力は必要だろうけど、優先順位はずうっと低い」という人だと思います。

手嶋 オバマ氏は選挙戦で「再生可能エネルギーを二〇一五年までに一〇%に」と言い切りました。日本では、どんなに努力しても、三%が精一杯でしょう。バイオマス、風力、太陽光、地熱といった石油に頼らない自然エネルギーを二〇一二年まで、つまり第一期の任期中に全発電量の一〇%にというのですからかなり大胆な挑戦です。

鈴木 これはきついですね。でも、彼のブレーンのセンター・フォー・アメリカン・プログレスのレポートを読むと、省エネをすごくやります。省エネをやると、自然エネルギーの割合が確かに増える可能性はある。また日本と違って、太陽光や太陽電池の可能性はけっこうあります。サンベルトの砂漠のところは、思った以上に太陽エネルギーが入る可能性は高いです。太陽エネルギーは今、安くなっているので。

手嶋 「再生可能エネルギーへの切り替えを」というオバマ路線は、今後のアメリカの進路を読み解く上で大切な手がかりとなります。

自動車産業に焦点をあてて見ていきましょう。自動車産業こそアメリカという国そのものです。自動車は国家のシンボルだったGMがいまや瀕死の重態です。二、三か月後の資金繰りにも窮して、政府に資金援助を仰いでいる。そんな情勢下で、オバマ政権は、全米自動車労組の支持を受けて出現しました。新大統領としても、彼らの雇用には配慮せざるを得ません。

ならば、彼ら「ブルーカラー」の雇用を優先させるのか。「中間層の大幅な減税」も公約していますから「ホワイトカラー」への配慮も欠かせない。グリーディー・キャピタリズム(強欲な資本主義)の象徴とされて、評判の悪い経営陣を共和党のカラーに従って「レッドカラー」とすれば、市場との対話ということから「レッドカラー」も無視できない。

結論を言えば、オバマ新大統領の胸のうちは「グリーンカラー」でしょう。環境に的を絞って政府の資金を潤沢に注ぎ込み、地球環境に配慮した産業分野に新たな雇用を創りだすというものになるでしょう。

鈴木 面白いですね。

手嶋 オバマ新政権は、クリーン・エネルギーに今後一〇年間で一五〇〇億ドルを投資する。大恐慌の時のようにフーバーダムの公共事業に膨大な予算を注ぎ込むのでなく、アリゾナの砂漠地帯に太陽発電の巨大な装置を設置する。仕事も、雇用も、クリーン産業も生まれる。これなら、ブルーもレッドもホワイトも不平はないでしょう。 サンベルト地帯に新しい仕事があるなら、自動車の州ミシガンから南を目指すでしょう。

鈴木 確かに行きたいかもしれない。

手嶋 五〇〇万人の雇用の創出は、計算しつくした提案なのです。自動車産業でいえば、二〇一五年までに一〇〇万台のアメリカ製プラグイン・ハイブリット車を走らせると提唱しています。しかも一ガロン当たりの走行可能距離が一五〇マイルのエコ・カーを生産するとしています。

グリーン・エネルギーには、もはや反対する人はいないでしょう。「グリーディー・キャピタリズム」から「グリーン・キャピタリズム(緑の資本主義)」へ。韻まで踏んでいる周到さです。「緑のニューディール政策」は、環境重視の新政権の柱なのです。こうしたなかで原子力をどう位置づけていくか、ここはまだ白紙の部分が残っています。

鈴木 今、アメリカの原子力は総発電量の二〇%くらいで、一〇四基あります。今後二〇年の間に、四〇基以上が寿命を迎える可能性がある。放っておくとどんどん閉鎖してしまいますので、この二〇%のシェアはガンガン落ちていくと、つい五年くらい前まではそう見られていたわけですが、電力会社もようやく「それはまずい」と思うようになったので、更新ができる環境だけは整えなければいけない。

これが前クリントン政権からブッシュにつないだ政策なので、これは維持するはず。更新事業は電力会社のリスクでやるんですが、それができる環境は維持する。ですから、シェアは二〇%を維持させるでしょう。

手嶋 「再生可能エネルギーで一〇%」。これとても野心的な目標です。予算も必要です。一方で原子力発電のシェアが、二〇%からが一〇%に減ってしまえば、温室効果ガスを二〇五〇年に八〇%削減するというオバマ政権の目標が達成できません。

鈴木 もう一つ、アメリカの場合は石炭火力のシェアが五〇%ですから、石炭産業はすごい雇用力を持っています。結局は石炭をどれだけ減らせるかなんですが、安いし、これがなかなか難しいですね。 石炭が、もっとクリーンになる可能性はありますが、まだできていません。ですから、多くのシンクタンクが「二酸化炭素の回収・貯留をやれ」と提案をしています。

手嶋 新政権としては、財政資金を市場に潤沢に使わなければ、景気は上向かない。しかし、かつてのように、公共事業に予算を使っても景気浮揚効果には限界があるとエコノミストは分析しています。

そこで、グリーン分野なら、新たな産業を生み、全く新しい価値を創り出し、同時に雇用も確保できると、オバマ大統領は考えているのでしょう。

鈴木 面白いのは、住宅、ビルの省エネをトップに挙げているんです。確かにアメリカのビルはひどいものね。

今まで誰も言ってこなかったんですよ。工場の省エネなどは言ってきていますが、ビルと住宅、しかも新築ではなくて、今あるビルの省エネをやると、効果はすごく高いです。省エネがすごく進むかもしれない。

手嶋 アメリカでは、日本系のメーカーも含めて、自動車が売れなくなってしまった。しかし、エコ・カーなら税制上の優遇措置もあって、息を吹き返すでしょう。そのとき、ハイブリッド・カーをもち、関連の省エネ技術を蓄えている日本の自動車産業は優位に立てるはずです。くわえて、オール電化やソーラー技術、太陽電池のノウハウもある。グリーン・キャピタリズムを掲げるアメリカは、日本にとって頼もしいマーケットであり続けるでしょう。

鈴木 そうですね。

手嶋 同時に、アメリカでは、一〇〇基ある原子力発電のうち四〇基は間もなく寿命を迎えようとしている。アメリカの原子力産業は、日本の建設、重電メーカーにとって、魅力的な市場です。日本が巨大・複雑系のシステム創出にいま少しノウハウを磨けば、未来に光が差してきます。

鈴木 はい。東芝がウエスチングハウスを買収したのは、正にそれをねらっていたんでしょう。

アメリカは今、三〇基くらいが許認可プロセスに入っていますが、新型の原子力発電所の発注を取れば、四、五〇年前と同じように、世界の新型原子炉の標準になる可能性があるので、ここ一〇年間に、どれだけ新しい原子力発電所の受注を取るかというのは、日本のメーカーにとってはものすごく重要です。

手嶋 その一方で、ブッシュ大統領は核軍縮については明らかに後ろ向きでした。その一方で、オバマ新政権は全く然違うと申し上げていい。

鈴木 核廃絶はかなりはっきりと「自分は核廃絶に賭ける」と述べています。例えば、包括的核実験禁止条約(CTBT)に戻る。それから、兵器用核物質生産禁止条約の交渉も、ちゃんとまじめに始める。これはすごく期待できると思います。

手嶋 「アメリカに良きことは世界に良きこと」という一国行動主義を清算したいと思っています。日本は九四年以来一貫して国連に「核兵器廃絶決議」を提案してきましたが、賛成国が一七三か国に対して、反対国は四か国。北朝鮮、イスラエル、インドと並んでアメリカが名を連ねています。興味深い連合でしょう。オバマ政権では、せめて棄権に回ってもらいたい。

鈴木 そうすると、核兵器産業も大きな産業なので、今度はこれをどう面倒見るか。クリントンのときでも国立研究所の統廃合を考えて、一所懸命やろうとしたんですが、結局できなかった。 統廃合は、科学者も含めて、核兵器産業のものすごい反対があって、クリントンのときにCTBTに入るときに、その交換条件に核兵器(兵器産業)の維持を認めざるを得なかった、ということがあります。

手嶋 核兵器産業を敵に回さないよう配慮しつつ、本気で核軍縮に取り組もうとしている節が窺えます。今日のアメリカは、核燃料サイクルを仕切るだけの力を既に喪いつつある。新大統領は、それを認めるわけにはいかなでしょうが、世界のリアリティーは阿吽の呼吸で気づいています。

鈴木 いわゆる核燃料サイクルの多国間管理について、彼は賛成だと言っています。ブッシュのときの国際原子力パートナーシップの多国間管理の部分は引き継いで、リーダーシップを取る可能性はある。

国際原子力機関の言っている多国間管理は、ブッシュの多国間管理と違っていて、ブッシュは「持っている国はオーケーだけど、今持ってない国はだめよ」という明らかに差別です。IAEAのエルバラダイ事務局長が言っていた国際管理構想は「持つ、持たないは同じルールでやりましょう」と。これをオバマは引き継ぐかもしれない。

手嶋 グリーン・キャピタリズムを掲げるオバマ大統領。「あの人は我らが大統領、地球市民のリーダーだ」と考えるべきだと私は申し上げています。環境政策、エネルギー政策、原子力政策、そのいずれをとっても、我らの大統領の采配が、国際社会の今後の進路を定めていくのですから。

鈴木 特に地球温暖化問題に対して大きく積極的にコメントしてくれると、今年のCOPは今までと違うものになるでしょう。

※COP/国連気候変動枠組条約を受け、具体的内容を検討するため設置された締約国会議

外交ジャーナリスト、作家
手嶋 龍一氏(てしま・りゅういち)
NHKワシントン支局長として9・11テロ事件に遭遇し、11日間連続の中継放送を担当。05年にNHKから独立して発表したインテリジェンス小説『ウルトラ・ダラー』がベストセラーに。近著は、オバマ新大統領やクリントン新国務長官など国際政局の最前線で活躍する29人のルポルタージュ『葡萄酒か、さもなくば銃弾か』。

東京大学公共政策大学院客員教授
鈴木 達治郎氏(すずき・たつじろう)
1951年 大阪府生まれ。工学博士。米マサチューセッツ工科大学エネルギー研究所および国際問題研究センター、(財)電力中央研究所・社会経済研究所上席研究員などを経て、現在は同研究所の研究参事も務める。共著書に『どうする日本の原子力』などがある。

「原子力文化」平成二一年二月号

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