手嶋龍一

手嶋龍一

手嶋龍一オフィシャルサイト HOME » 著作アーカイブ » 2007年

著作アーカイブ

「外務省は”武装解除”される」(対談:佐藤優氏)

佐藤優・二審敗訴からみえたもの 外務省は〝武装解除〟されたのか

日露外交を進める過程で背任罪等に問われた佐藤優元外務省分析官の二審判決は、同省幹部による決済も、かつて絶大な権力を誇った条約局の有権解釈権をも認めないという厳しい内容だった。「外務省存亡の危機に関わる」と危惧する当事者と外交オブザーバーが語る


外務省存亡の危機?

手嶋 まず「国策捜査」という佐藤ラスプーチンの造語で注目を集めた一連の出来事を簡潔に振り返っておきましょう。佐藤ラスプーチンは、ロシア情報の宝庫でもあるイスラエルで学会を開こうと企画。その費用を対ロ支援の予算から不正に支出させようとしたとして背任容疑等に問われ、東京地検特捜部に逮捕、起訴されました。一審に続いて二審でも東京高裁は「支出に違法性があった」と断じて、執行猶予付き有罪判決を下し、一審の判断を支持して控訴を棄却しています。

この裁判を報じたメディアの記事がいかにも粗雑ですので、このラスプーチン裁判の核心部分をおさらいしておきましょう。問題のイスラエル会合の費用は対ロ支援の国際協定に基づいて支出されました。当時の条約局の幹部が国際協定に拠って予算を使うことは適法と決済しています。しかし、一審と同様に二審の高裁も、この決裁は、お知らせを町内に回す回覧板以上のものではないとして、外務省の条約や協定の有権解釈権の重みを全面的に否定しました。この驚くべき判決では、イスラエルでの学会に国の予算を支出した行為は協定違反だと断定しているのです。

しかし外務省の条約当局は、一貫して適法と供述しています。その主張を退けるなら、逮捕されるべきは、条約局をはじめとする外務省の首脳陣です。適法との判断に基づいてそれを執行した下僚が罪に問われるような国家に奉職する者などいないでしょう。条約など国際約束をどう執行するか判断する「有権解釈権」は、戦後一貫して条約局が担ってきました。裁判所はこうした外務省の「有権解釈権」を真っ向から否定した。こんな恣意的な判断がまかり通るなら、日本という国家と協定など締結する国はいなくなってしまう。メディアもそうだが、判決も粗雑このうえないと指摘せざるを得ません。

佐藤 一審判決より、さらにひどいですよ。地裁における公判では東郷元欧亜局長の証言はなかったんです。けれど、二審は東郷さんが弁護側証人として出廷してくれて、「支出は外務省が組織とし認めたことで、佐藤君の責任ではない」と証言しているんです。ところが高裁は、この証言について、当時自民党だった鈴木宗男衆院議員(現在、新党「大地」代表)の圧力によって、捻じ曲げた決断だったと判断し、外務省が有権解釈権を保持したいがためのウソだ――とまで言っている。要するに、偽証認定したのです。外務省の幹部をうそつきだと断じた。

手嶋 そうまで言われたのですから、外務省の条約当局は毅然として反論すべきでしょう。外交ジャーナリストとして私は、ごく常識的な指摘をしているに過ぎません。もし条約当局が沈黙するならもう誰も彼らの解釈権などに耳を傾けなくなるでしょう。日本は強大な軍隊を持たない国です。アメリカのように力こそ正義というわけにはいかない。言の葉をつむぎあげ、国際条約を創り出す力こそ死活的に重要なのです。だからこそ歴史的に「条約局」が絶大な権限を持ってきたのです。沈黙は条約当局の死を招くことになるでしょう。

今回の控訴審の判決で、「有権解釈権」を真っ向から否定された外務省は、今後の対外折衝で手負いになってしまいます。どんな条約や協定を結ぼうと、相手国が異を唱えていないのに、司法当局によっていとも簡単に覆されることが明らかになったのですから。このままでは、日本外交の〝武装解除〟は急速に進むでしょう。

当時の条約課長が急な所用が生じて出かける際、担当官に起案されていない白紙の書類に決済のサインだけして手渡したことがありました。この〝白紙委任状〟は、銀行家ならブランク・チェックに等しいものです。この担当官は「わが人生でこれほどの信頼を寄せられたことはない」と震えるほど感激したことがあると聞きました。本来、条約局の決済はそれほどの重みを持っている。事実として回覧板などでは決してない。

佐藤 二審の判決が出てからというもの、外務省の局長、課長クラス、財界などから十件を超える電話がありました。外務省の存亡の危機に関わるから、上告して最後まで頑張ってくれという激励の電話です。僕を心底、憎んでいた現役の外務官僚ですら、「こればっかりは頑張れ」と(笑)。

手嶋 日本外交の最後の砦をここまで否定されたのですから、条約当局は正式な文書で徹底的な反論を試みなければ。国際法局長の沈黙は万死に値する。日本外交の勁さは、条約を紡ぎあげることにのみある―韓国外務省の最高首脳がこうしみじみと語っていたのを憶えています。近年、外務省が作成した外交文書を見ていると、かの「平壌宣言」をあげるまでもなく、う危機感を持たざるを得ません。

〝外交の基礎学力〟の低下

佐藤 ご指摘の通り、今、外務省は条約を作り上げるという外交の「基礎学力」が落ちているといっていい。

手嶋 問題の「平壌宣言」を見てみましょう。まるで実効性のない言葉の羅列にすぎない。「核問題及びミサイル問題を含む安全保障上の諸問題に関し、関係諸国間の対話を促進し、問題解決を図ることの必要性を確認した」。これでは、北の独裁国家に核放棄に向けた一歩を踏み出させることなどできません。その証拠に北朝鮮は、ミサイルと核の実験に踏み切りました。何の歯止めにもなっていなかったからです。また、「日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題については、(中略)このような遺憾な問題が、今後再び生じることがないよう適切な措置をとることを確認した」と書いて、これが拉致問題の解決を指すと釈明しています。金正日総書記が謝罪したのですから、それを受けて平壌宣言にははっきりと書き込むべきです。この部分が拉致問題を指すと言い訳しても、それを裏付ける何らの会談記録も残されていないではありませんか。

佐藤 こんなこともありました。平成十七年二月に衆院が「日露修好一五〇周年にあたり、日露関係の飛躍的発展に関する決議」を全会一致で可決しました。この決議は「政府は(中略)歯舞、色丹及び国後、択捉等の北方領土の帰属の問題を解決して平和条約を早期に締結するという一貫した方針に基づき、平和条約交渉を具体的かつ実質的に前進させ……」となっている。択捉「等」と入っている。ロシア人はこの決議を見て仰天した。これまでは四島といっていたのに、等が入っている。日本は国の領土を無限に広げる気ではないのかと邪推させる結果になったのです。

手嶋 これは、一九九五年に衆参両院で「北方領土問題の解決促進に関する決議」を可決して以来、一〇年ぶりの重要な決議でしたね。

佐藤 九五年の決議を紐解くと、議会は四島等の返還を求めているとした上で、政府は、四島の返還を求めているという二重の構成になっています。なぜか。議会が「等」を加える理由は、全会一致にするために、千島列島二二島の返還を要求し続けている共産党に配慮しているからです。そして、政府は従来通り四島の返還を主張しているということです。この決議が行われた時には、外務省はロビー活動まで行い、ロシア人に共産党対策であることを説明し、納得させている。

ところが、昨年の決議では、政府を主語にしながら、「等」を入れたままにしてしまった。議決のタイトルは「お友達になろう」といった雰囲気なのに、中身からは、権利を拡張する気配が仄見える。そういったものをロシア人は最も嫌うんですよ。外務省は「国会が作成したので関知していない」と逃げていますが、これは外務省だって「しまった」と思っているんですよ。大変な能力低下がこんな文言にあらわわれています。

怪我の功名で進展する日露外交

手嶋 こんな風に、条約当局の弱体化で〝武装解除〟が進む外務省ですが、実に皮肉なことにそれによって引き起こされた失敗が、ロシア側を新たな地平に誘いだし、両国が歩み寄るきっかけとなりました。外交とは実に不思議な生き物です。

佐藤 そうなんです。日本が北方四島「等」と入れたことにより、ロシア側は日本が「固有の領土」を広げるつもりなのではないかと、慌て始めたのです。

手嶋 国会での論戦がロシア側をいささか慌てさせ、事態を動かすこととなりました。昨年末、衆院外務委員会で麻生太郎外相が、北方四島の全体の面積を二等分して日ロの境界線を画定する案を示したといわれます。麻生外相はそんな提案などしていない。民主党の前原誠司前代表が「四島を二つに分けるとどうなるか」と質問したことに対し、「四島を半分にしようとすると、択捉島の約二五%と残り三島をくっつけることになる」と事実を淡々と述べたにすぎません。

佐藤 北方領土の解決を急ぐあまりに、一部の外務官僚が、前原氏にたきつけたのだと思います。デキレースですよ。

けれど、ロシア側はこの報道にも反応した。領土を縮めるという発想が相手にあるなら、「延びる危険がある」と身構えた。そういう思考回路なんです。

日本が弱ければロシアだって反応しません。しかしながら、日本の実力をもってすれば、本当に四島以上になるかもしれないと恐れているんです。

今、日露の外交が展開されているかのように見えているのは、このあたりで話し合っておこうという気持ちをくすぐったからです。

手嶋 昨年末、日本企業などが出資するサハリン沖の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」の経営権をロシアが強引に奪ったとして波紋を呼びました。日露関係が進むかに見える一方で、こうした強硬な手法をラスプーチンはどう見立てていますか。

佐藤 「サハリン2」については、相当に強硬な手段に出たことで日本の復讐を恐れているはずです。彼らが強気に見せるときは、弱気になっている証拠です。存分に脅かすといい。

昨今、原油高による経済回復で、ロシア国内にはナショナリズムの嵐が吹き荒れているなどといわれていますが、ロシアにとってエネルギーは常に大事な問題なのでいつでも強く出ています。今、「経済状況がいいから譲歩しない。領土問題は解決しない」とロシアは主張し、日本のマスコミもその通り書いて、そうした風説が広まった。しかし、二〇〇〇年にプーチン大統領が来日したときには、「経済状態が悪いから譲歩できない。領土問題は進まない」と言い切っていましたからね。

手嶋 なるほど。良くても、悪くても領土問題は進めたくないと主張すると。であるならば、経済状態が良い時は、それにあわせた交渉を、悪いときはそれを梃子にした交渉をするしかないということですね。

「勢力均衡外交」のススメ

手嶋 そうしたロシア側の焦りを日本側が冷徹に読んだのか、新たな対ロ外交の幕が静かにあがりつつあるようです。一月二十三日から二日間、モスクワで「日露戦略対話」が開かれました。谷内正太郎外務次官によるラブロフ外相の表敬訪問は、当初三〇分間の予定を大幅に超えて七〇分に及ぶという外交の世界では異例の展開となりました。

佐藤 日露関係は二〇〇二年一月から全く動いていませんでした。その上、昨年八月には北方領土周辺海域で、日本漁船がロシア警備隊に銃撃、拿捕される事件がありました。この事件でクレムリンは真っ青になっています。日本と良い関係を結べるよう、何でもいいから何かいい話にもっていけ――という指令が間違いなく出ている。

手嶋 この日露戦略対話の直後に、朝日新聞が、面白い記事を掲載しました。「(谷内次官が)安倍晋三首相に今回、『外交の地平線を広げるべきだ』と停滞するロシア外交の打開を進言している。(中略)谷内氏は『領土をどこでどう仕切るかは、理屈ではなく現実的な妥協だ。野心はある』と語った」という内容です。

佐藤ラスプーチンは、この記事を論評する風を装いながら、外政家、谷内正太郎は、「帝国主義的な勢力均衡外交を展開するつもりだ」と見立てています。この見立てに接した当人は、ラスプーチン風の表現を借りて「なんと地頭がいいのだろう」と語ったといわれます。オーストリアの宰相メッテルニッヒが取り仕切ったウィーン会議に象徴される、あの十九世紀的な勢力均衡外交。帝国主義の華やかななりし時代にヨーロッパで活躍した政治家たちが繰り広げたこの古典的な外交をひそかにもくろんでいると喝破したわけです。確かに実に鋭い。

佐藤 帝国主義って悪いイメージを与えるかもしれないけれど、経済的に資本を外に輸出していって、自分の影響力を強めていくというそういう斬った、貼ったの世界ではないですよ。谷内次官は、かつて日本が侵略国であったことをアジア諸国に髣髴とさせるような誤解を決して生じさせない勢力均衡外交を考えているはずです。

手嶋 谷内次官は、二十世紀の日ロ関係は暗かったが、二十一世紀は明るい日ロ関係をと持ちかけたといいます。日本を基点に世界を見渡たすとき、「五極」を形成するのは、日本、米国、ロシア、中国、EUとなります。日米、米ロ、米欧―それぞれに軋轢がないわけではないが、どの関係もかなり緊密です。ところが、日ロ関係だけが異常なほどに疎遠です。平和条約すらなく、経済交流もほかに比べるべくもない。

「日本外交」という名のタンカーがあれば、領土問題という桎梏を断ち切ることで、船足が早まり、針路がぐんと広くなる。そうすすれば、中国や北朝鮮だって風圧を感じざるを得ない。バランス・オブ・パワー、勢力均衡外交を推し進めることで果実は向こうからやってくる。

七〇年代初めがまさにそうでした。中ソ、米ソがそれなりの関係を切り結ぶなか、米中だけが疎遠でした。リアル・ポリティークの申し子たるキッシンジャーが、ニクソン大統領とともに、米中の劇的な接近を図りました。これによって米ソの戦略核交渉も動き始めたのです。読みどおりだったのです。

二十一世紀の今、日ロ関係を動かすには、北方領土というトゲを抜かなければなりません。

鍵は、二重の戦後処理

佐藤 そうです。北方領土というのはスターリニズムの残滓です。

手嶋 懐かしいことばだなあ。これを西側同盟の盟主アメリカの側から見てみましょう。一九五六年、モスクワで日ソ平和条約交渉が再開され、当時の重光葵外相が、歯舞、色丹の二島返還で妥協しかけた。この時、後の米国務長官となるジョン・フォスター・ダレスは、二島で手を打ってはならぬと厳しく命じ、「四島返還を主張しなければ、沖縄の返還もない」と恫喝しました。ダレスは北方四島を未解決のまま残しておくことで、日ソに楔を打ち込んだのです。日本が中立化したり、東側に取り込まれたりしないよう周到な布石を打ったのです。まさに、ダレスイズムの残滓ともいうべきものです。

佐藤 「ダレスの恫喝」といわれる事件ですよね。しかし、これは実に面白い話なのですが、東郷元欧亜局長が現役のときにこの記録を必死で探したのですが、どこにも見つからなかったそうです。

手嶋 消えた記録をさてどう見立てますか。

佐藤 最初から作っていないのか、あるいは、ある段階でこれがあるとまずいことになるといって、抹消したのか。僕自身も経験があるのですが、何らかの会談をしたときに、コアの部分を残さない記録を作ることがある。今だから話せますが、森喜朗元首相とプーチン大統領が会談を持った際に、鈴木宗男氏と現副首相兼国防相のセルゲイ・イワノフ氏の間に秘密のパイプを作ろうという話が出たのです。この秘密ルートを作ろうとしたことについて、森首相から「秘密でやれ」といわれたので、僕は記録に残さなかった。

後に、記録が無いために、危うく東京地検特捜部に「私的な外交をしようとした」として、贈収賄容疑で再逮捕されるところでした。後悔しました。外交は人に語れないことはもちろん多い。けれど、誰とあっているか、どんな話をしているのか、ぎりぎりのところまでは国民に説明するべきだし、記録は残すべきです。これが二審判決でも敗訴した僕の教訓です。

僕だけではない。外務省でロシア外交を担当するいわゆる「ロシア・スクール」の連中には、説明責任を果たそうとしないところがある。ともかく、実績をあげればいいだろうと。二島とりあえずかえってきて、残りの二島は継続協議って形で成果を示せばいいと思ったのです。二島にまず日の丸が揚がれば国民はみんな喜んで納得してくれると思っていた。国益のためなら、冷戦下のような密室外交が許されると信じていたんです。誤ったエリート意識があった。反省しています。

手嶋 そうですね。外務省にはそういう冷戦期の〝金縛り〟が残っている。さて、そうした日本外務省に十九世紀的な勢力均衡外交を展開できるのでしょうか。

佐藤 率直にいって、この大変に大切な勢力均衡外交というスタンスがロシア・スクールに欠けている。ロシア・スクールの連中は、今言ったとおり、第二次世界大戦、太平洋戦争、大東亜戦争の処理こそが自分たちの仕事であるという発想なんです。我々日本は、ソ連との関係において侵略されたと。この単線的な思考の中で仕事をしていて、冷戦後の処理という発想がないんです。

手嶋 であれば、北方領土問題はロシア・スクールだけでは手に負えない。

佐藤 ですから、北方領土問題は、ロシア・スクールから切り離した方がいい。勢力均衡外交がきちんとできる人と、ロシア・スクールの伝統を統合し、「二重の戦後処理」という形で取り組む必要があるのです。

手嶋 二重の戦後処理。いい言葉ですね。

佐藤 我々日本は、歴史の中でロシアに侵略された側だと主張すると同時に、アジア諸国に迷惑をかけたことを真摯に反省する。アジアに対して頭を下げるということは、ロシアに対しては承服できないということを意味するからです。これは、メダルの表裏の関係にあるんです。

第二次世界大戦の戦後処理と、勢力均衡外交による戦後処理。大変に複雑で難しい連立方程式です。地頭がよくなくては解けません。

手嶋 現在の外務省は、麻生外相―谷内次官という絶妙のコンビで取り仕切っている。したたかなナショナリストにして、日米同盟重視派の組み合わせといっていい。

二島でも四島でもなく……

佐藤 領土問題に関しては、二島とか、四島とか、そういった話は全くする必要はない。あくまでも日本の固有の領土は四島だと主張し続ければそれでいいと思います。

外務省が今、敢えて対外的に発信するなら、サンフランシスコ講和条約の話をすればいいんです。確かに我々は南樺太と全千島を放棄したけれど、帰属はどこのものになっているか良くわからんと。そして、そもそも、この条約にソ連は調印していないではないかと。「サハリン2」などで交渉ががたついていることもあり、「第二次サンフランシスコ講和会議でもやりましょうかねえ」くらいの嫌がらせを言ってもいいんですよ(笑)。

四島は、我々の神話です。民主主義も、領土も、最後は神話です。だから、貫くのが肝心です。プーチンには「我々の神話は四島です。でも、固有の領土は何かと問われれば話は別です。神話に乗ったほうが得でしょう」と言えばいいのです。

手嶋 冒頭にあったように、「等」の失敗が、ここではプラスに転じるかもしれない。今までの日ロ交渉というのは、日米安全保障体制の中での話しだったけれど、互いに世界の五極だということを意識して交渉を進める必要がある。今、ロシアも日本を五極の一つとして認め始めているのですから。

佐藤 ちなみに、ロシアが領土を返還しないというのは日本人の思い込みです。五十年代には大連と旅順を中国に返還しているし、同じくスピッツベルゲン島の主権もノルウェーであることを認めている。ねちねち交渉すれば、ロシアは領土を手放します。

ただし、ここで言わなければならないのは、返還してもらったとしても日本の外交の基本は日米同盟だということです。我々は、強い者と組む。「悪いですが、ロシアさんは弱いから」と。「ただ、五極の一つですから、準同盟くらい結んであげてもいいですよ」などと畳み掛ければ、ロシアは「日本は正直だ。我々は正直で頭のいい奴と仕事をしたい」と思い、両国の関係は急速な進展をみせるに違いありません。

対談
佐藤優/起訴休職外務事務官
手嶋龍一/外交ジャーナリスト・作家

閉じる

ページの先頭に戻る