「本を通じて学生に伝えたかったこと」
アメリカの同時多発テロが起こった時、私はNHKのワシントン支局におり、混乱を目の当たりにしていました。その翌年、北海道にある母校の高校へ、講演に行きました。テーマは「アメリカと北海道と私」。当時、テロの騒動は続いていましたが、こういう時期だからこそ行かなくてはと考えたのです。
私は学生たちに、梅棹忠夫さんの『日本探検』(中央公論社)を紹介しました。これは、私自身、高校時代に読んだ本で、北海道の独立を説いた部分に、大変な衝撃を受けたもの。大胆な発想の内容はもちろんのこと、独特な視点や華麗なレトリックに触れてほしいと思ってのことでした。
「本を贈った」経験といえば、もう一つ。その時の講演会で、私はある女生徒と出会い、以後、書簡のやり取りをしているのですが、当時の彼女は、学生には荷の重い問題を抱えていました。それを聞いて、私はロアルド・ダールの『少年』と『単独飛行』を紹介したのです。『チョコレート工場の秘密』等で有名なロアルドの自伝的作品です。その本で「今は大変かもしれないが、この先には無限の可能性がある」ということを伝えたかった。うれしいことに、今、彼女は夢に向かってがんばっていますよ。
少年時代の私は、本の中であちこちへ行き、様々な追体験をし、「あそこに行ってみたい」「あの人に会ってみたい」といった具体的な夢をもち、そして、実現してきました。ここ数年、危惧されている「読書離れ」はいけないことではなく、単にチャンスを逃しているだけのこと。本との出合いは、人との出会いと同じです。そこから世界は広がっていくものなのですから。(談)
(朝日新聞夕刊掲載)