手嶋龍一

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グアンタナモを風化させない 後世に語り継がれていく映画

『グアンタナモ、僕達が見た真実』

「グアンタナモ取材は孤立無援だった。僚友が映画の形で登場し心強い 」

ポスト9・11時代の空白地帯といわれるグアンタナモ基地。その取材は孤立無援だった。それゆえ、ブッシュ時代のアメリカの闇に共に分け入った僚友が映画として登場したことを心強く思う。NHKスペシャルで「カリブの囚われ人」というタイトルで、グアンタナモ基地を扱ったドキュメンタリー番組を二年にわたって取材し・制作した。

だが、グアンタナモ基地のなかで非人道的な尋問や虐待が行われているという噂は飛び交っていたが、真相は深い闇に覆われていた。真実に迫る道程は苦難の連続だった。取材者にとって、囚われ人のなかに国際テロ組織に関係する者がいるかもしれないという点が隘路となった。

実際、すべてが灰色だったのであり、それゆえ、アメリカのメディアは及び腰だった。この映画は、限りなく無実に近い人々を扱っているが、たった一人の戦いを強いられた我々にとっては、こうした作品がついに現れたことを心から喜びたい。欲を言えば、グアンタナモ基地の罪と罰が白日のもとに晒された後ではなく、僕らと同時進行の形でこの不正義に挑んでほしかったと思う。

僕たちはこの映画で描かれている事実から目を逸らしてはいけない。グアンタナモ基地で起きた出来事は、アメリカという国家が掲げてきた自由と民主主義の理念そのものを傷つけているからだ。映像ドキュメンタリーの戦列に加わった、この映画の出現によって、グアンタナモは永く歴史に刻まれることになろう。ブッシュのアメリカが手を染めた対テロ戦争の黒いシミを後世に伝えていく力をこの映画は内に秘めている。第二次世界大戦でルーズベルト民主党大統領は、罪なき日系アメリカ市民を強制キャンプに送った。

後にレーガン共和党大統領は、アメリカのデモクラシーが犯した過ちを公に謝罪している。いつの日か、アメリカの大統領が、グアンタナモの誤りを謝罪する日が来ることを願っている。そのためにもこの映画を多くの人々に見てもらいたい。

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