手嶋龍一

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「日米同盟再建が急務」

平壌宣言など誤りは精算を

『東京新聞』2006年8月8日掲載インタビュー記事

――小泉首相の実績として、北朝鮮外交が挙げられる。

「北朝鮮による拉致被害者の一部を帰国させた成果は否定しない。しかし、北朝鮮外交の集積点である日朝平壌宣言は評価できない。国交回復して経済協力をすることは書かれているが、拉致は明記されていないし、ミサイル発射凍結は申し訳程度にしか載っていない。」

「その後、弾道ミサイルが連続発射され、拉致問題も進展がない現状を見れば、やり方に誤りがあったことは明らか。平壌宣言に至る外交上の過程も公式文書に残されておらず、平壌宣言は外交文書としは過誤に満ちている。そうまでして小泉首相は訪朝のサプライズをする必要はなかった」

―― 小泉首相とブッシュ大統領の親密な関係で、日米関係は戦後最も良好といわれる。

「首脳関係と日米同盟を混同してはいけない。2人の関係が良いのは認めるが、日米同盟が磐石ということではない。例えば、外務次官級協議は途絶えている。日本の国連安保常任理事国入りがうまくいかないのは、米国が安保理改革案を提示せずに葬り去っているからだ」

「中国などに対する日米の共通した東アジア戦略も描けていない。6月末の日米首脳会談で、北朝鮮にメッセージを送ったにもかかわらず、あざ笑うかのように弾道ミサイルが連続発射されたことは、日米同盟が空洞化して機能していないことを世界中に知らしめたといえる」

――小泉首相の靖国神社参拝で中国、韓国との関係は悪化した。

「首相が靖国神社に参拝したことによって、東アジアでの日本の孤立が深まっている。小泉首相は心の問題というが、政治家であるからにはその結果責任を取らないといけない。日本の孤立化は外交にネガティブなインパクトを与えた。ロシアもその状況を見て、北方領土問題で交渉しようとしなくなった」

――靖国問題について論争が激化している。

「靖国神社そのものが外交課題になり、私的な神社のあり方に日本外交が委ねられるという不健全な状況となっている。大きな方向としては、靖国神社の非政治化、非宗教法人化、A級戦犯の分祀(ぶんし)の道もある。だが、靖国神社をめぐる問題が解決したからといって、中国、韓国との関係が解決するわけではない。竹島や東シナ海のガス田の問題など懸案はいくらでもある」

――ポスト小泉候補には、東アジア外交の再建を第一に訴える人もいる。

「谷垣禎一財務相は『東アジア外交の再建』と言っているが誤りだ。再建すべきは日米同盟そのものであり、日米のとりでが東アジアで築かれて始めて日中、日韓関係も改善に向かう。北朝鮮問題も同じだ。小泉首相は、日米関係がよければアジア諸国との関係も良くなると言ったが、けだし名言だ。日米関係が良ければ、東アジア外交の選択の幅が広がる。次期首相が取り組むべき最大の外交課題は日米同盟の空洞化を食い止めることだ」

――安倍晋三官房長官や麻生太郎外相は北朝鮮のミサイル発射に関する国連安保理決議をめぐる外交交渉で、「もの言う外交」という強気な姿勢を誇った。

「それは表面上のことに過ぎない。外交はもっと懐の深いものだ。首相の座を目指すのなら、もっと幅広い外交を展開してもらいたい。」

――外交政策から判断して、ポスト小泉にふさわしいのは誰か。

「誰というイメージは特にない。日米同盟が空洞化しているという危機感を持っている人はいないかもしれない。今、有力な候補は小泉首相からすんなり引き継ぎたいと思うだろうが、日本外交には問題点が多い。小泉政権批判に通じるかもしれないが、平壌宣言など、過去の小泉外交の誤りは清算すべきだ」

――小泉首相はイラクに自衛隊を派遣したが、日本の国際貢献について次期首相への注文は。

「集団的自衛権の拡大解釈を認めれば、日米同盟が強化されるというのは疑問だ。イラクのように難しい地域へ出ていくより、日本が独自の分野で活躍できる地域がほかにたくさんある。もっと大胆にやるべきだ。米国を味方につけ、安保理常任理事国入りに向けた再出発を図る必要もある」

「長期的に言えば、台湾海峡危機への備えがいる。米国と中国の力が均衡してきているということは、抑止が利かないということ。朝鮮半島危機では日本がどう振る舞うかコンセンサスはあるが、台湾海峡危機では全くない」

東京新聞2006年8月8日掲載

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